引きこもり・不登校の人々が増えていることは、いまやわざわざ語るまでもありません。
自分の子どもがそのような状態になったとき、ほとんどの親はそれを受け入れられません。
学校が悪い、会社が悪い、世の中が悪い、子ども自身が悪い…。
そして、どうしていいのかわからない。
そんな親たちに、この本のメッセージは痛いかもしれません。
しかし、引きこもり回復に取り組んで30年になるSCSカウンセリング研究所は、「親が変わること」「親から始めること」が何より大切だと伝えています。
現在全国から相談者が殺到する、ここでしか扱わない療法で引きこもり・不登校に取り組むSCSカウンセリング研究所の著者が送る、渾身の一冊です。
そして、この本は引きこもり・不登校という目に見える「症状」を出している子どもの親だけではなく、生きづらいと感じているすべての人に役に立つ内容が入っている、そう感じます。
引きこもり・不登校になぜ親育ち・親子本能療法なのか
「親から始まる引きこもり回復」を刊行した一般社団法人SCSカウンセリング研究所(以下SCS)は、30年以上にわたる活動を行っています。
当初は引きこもり当事者である青年たちに働きかけていました。
本来真面目で繊細、優秀な彼らはみるみる回復していきました。
しかし、ある一定時期をすぎると再び動けなくなる、といった事例が続出。
しかし、一定数の青年たちは確実に回復していきました。
彼らに共通するものは何なのかーそれは、衝撃的でした。
「本人ではなく、親だけにアプローチしたケース」が、ぶり返すことなく回復していったのです。
それから、親へのアプローチをメインにしたところ、回復事例続出、ぶり返しなしという結果を得たのです。
「直したものはぶり返す。安らぎから治ったものはぶり返さない」
とは、日本屈指のある治療家の言葉だそうで、その安らぎをはぐくむ環境こそが親なのです。
人間には本来、生きる本能と自己実現に向かう欲求が備わっています。
その活動がひきこもりや心の不適応という形で一時的に停止しても、それらを育む環境が整えば必ずまた動き出します。
その環境を育み続けるために親の成長、すなわち「親育ち」が必要なのです。
本書20ページより
親が変わっていくことで我が子に変化を起こす。
不登校でも50歳を過ぎていても適用可能な親育ち・親子本能療法のアプローチについて述べられている本です。
一体親はどうすればいいの?
引きこもり・不登校から回復する5つのプロセスとは
本書は、回復するためには5つのプロセスが必要だと説いています。
親との関係性の中で人生に「希望」を取り戻し、「意思」が尊重されることで自分に価値を見出す。
「目的」を帯びて行動し、やがて集団世界の中に入り自分を位置づけるために葛藤しながら「有能性」を育む。
そこを乗り越えて「自分が自分でいい、そして社会からもそう思われていると思える確信」というアイデンティティの獲得に至る。
本書24ページ
これが、回復のための5ステップです。
「希望」のプロセス
ここでの目的は、家庭内に安心・安全の風土を育み、我が子に「生きる希望」の灯をともす。
ということ。
外出はほぼなし、会話もなし、部屋に閉じこもっていて昼夜逆転,風呂にも入らないというような状態。
自分の存在意義もわからない絶望の状態から、親の無条件肯定によって希望を持つことができるようになるプロセスです。
親子の信頼関係を築き、ありのままの我が子を信じて受け入れること。
親の側にも強い意志が求められます。
社会的な正論や脅しは全く無意味、我が子の立場に立って考えてみること。
引きこもりや不登校にならずとも、すべての人が求めているものであるのかもしれません。
人間は安心と安全な風土が担保され、自分の話を無条件に肯定的かつ共感的に純粋な気持ちで聞いてもらえれば、それだけで必ず建設的な人格に成長していく
本書91ページ
無条件の受け入れ…。そのとおりね。
「意思」のプロセス
ここでの目的は「自分の意思に価値がある」と思えるようになること。
感情の保持と排泄を律する力を獲得すること。
状態としては外出はまだほとんどなく、会話も少ない。
吐き出しが始まったり良い子を卒業して、事態としては厄介かもしれません。
親に求められるのは引き続き無条件肯定、すべてを聞き取る。
親自身の価値観の枠を拡大すること。
このプロセスでは絶望から生きる希望が出てきたゆえに、感情の蓋が開いて、ひどいことを言ったり困らせてみたり、様々な症状が出てきます。
それでも表面に出てくるわが子のことをすべて受け入れ、親自身も成長していくのです。
親自身の夫婦間の問題にも取り組む必要が出てくるかもしれません。
この時期は自分の価値を認めたいがための言動も出てきます。
「言の葉をおいかけるな、木(その人)を見ろ」
本書154ページ
とは、我が子がいろいろと言ってくることに対して、言葉通りに受け取って右往左往するのではなく、本当に言いたいことは何か考えること、そして我が子は日々変わっていっているということを忘れないこと。
感情の蓋が開くといろいろなことが起きるのね。
「目的」のプロセス
ここでの目的は我が子の「自主性」を尊び、「自己決定力」を育む、人生に「目的」を持てるように支えていく、ということ。
状態としては外出は増えてくるが、すぐに就学・就労をするわけではない。
家族との会話は増えてくる、行動するも長続きはしない…など、動き出しそうな気配は出てくるものの、まだまだゆったりと構えておく必要があります。
無条件肯定を徹底、我が子の行動に投資する。
遊び始めたら歓迎する。
親自身が成長し、家を安全基地にする。
一見回復しつつあるように見えて、動いては疲れて充電する必要が出てきたりします。
また、働こうという意思を持つことと、実際に働くことは同じではないのでおおらかに見守る必要もあります。
我が子が動き出しても親は気を抜かないこと。
勇気とは、(心が)違うと思ったら、一人でも引き返せること。
本書199ページ
勇気とは自分のエネルギーが消費され、違うと思うのにやり続けることではなく、自分の心が感じたことを何よりも尊ぶことを勇気と考える、というメッセージです。
引きこもっていた子どもが働き始めたり学校に行き始めたりしても、違うと思ったらまた引き返せるような安全基地に家をしておくことが、大切です。
「生きていく意味」が浮き彫りになり、踏み出していければそこが自己実現への道につながっていくのです。
心が違うと思ったら引き返せるのが勇気、うん。
「有能性」のプロセス
ここでの目的は「自己効力感」を育み、人生に「有能性」を持って生きていけるようになるということ。
有能性とは自分なりにやっていける、学んだり働いたり何かに打ち込むのは面白いという感覚のこと、
状態、特徴としては、具体的に何かに取り組みだす、外出頻度が安定して向上、家族以外の人間関係が開始、復活する、など。
安定してきたように見えても、劣等感を覚えることが多いため、無条件肯定は必須、
アドバイスはせず、見守る。
何かあったらいつでも助けになる存在でいる。
自身の価値観の枠を広げ続け、時代の変化に適応し、家の安全基地機能を充実化させる。
もう大丈夫、と思って手を放しがちですが、まだ本人は無理をしていたり、いっぱいいっぱいだったりします。
ノーと言える、人に頼れるというのも大事なプロセス。
家庭では「快話」を心がけていきましょう。
「生きる本能」とはつまり、喜怒哀楽に正直に生きることです。そして、喜怒哀楽に基づく欲求感を自分のモノにできているかどうか。
本書242ページ
ここに書いてあることは、引きこもり・不登校のこどもにかかわらず、すべての人に当てはまることだと思えます。
自分の気持ちに気付くって大切だね。
「アイデンティティ」のプロセス
ここでの目的はアイデンティティの獲得~自分は自分でよい、社会からもそう思われている~をし、「この世で唯一無二の自分となる」ことを祝福し、見守っていくこと。
特徴としては、自分の力で生きていける、人とつながっていける、他人や親に助けを求められる、自己実現に向かう。
親としては、遠くから見守り、子が求めるサポートだけをなんでも行う、ということ。
我が子を信じて親子の愛と信頼を育み続けるのです。
親も子も葛藤し、ぶつかり、成長し、ここまでくればお互いに相手を祝福し、生きていけるようになります。
親に愛された実感(親が自分を信じ、枠を超えて行動してくれた手応え)は人間の人生を貫き、支えるもの。
「わが子の無意識で起きた引きこもりという問題が、無意識の中で解決されるからこそ確実な回復」なのです。
本書264ページ
この回復のプロセスは、安らぎの中での回復であり、心理学で有名なマズローの欲求階層をきちんと踏んでいるからこそ確実なものとなります。
ここまで来たら、こどもはもちろん、親自身の人生も愛と信頼と自立の環境にあることでしょう。
ひとつひとつ階段を上っていくんだね。
SCSカウンセリング研究所と著者について
SCSは東京都巣鴨にあり、「子の問題に親が主体的に参加する」ことを主眼として解決に取り組む、他にはない回復法を行っており、全国から取り組むために親が集まってきています。
カウンセリングのみならず、親が変わるための講座も開き続けています。
著者の桝田智彦氏はここの副代表であり、スクールカウンセラーや講演家としても活動されています。
臨床心理士であるので、大学院まで出られていますが、実は20代はミュージシャンとして活躍されていたそうです。
ところが30歳の時に無二の友人が自死。
衝撃を受けて、引きこもり、その回復を経て34歳で大学に入り,40歳でデビューされたのです。
ご自身の体験も含めて、活動されています。
「心理学とは多くの場合、再現性がある」のです。
再現性とはつまり、正しい方法を、正しい順番で継続すれば結果や回復に導けるものなのです。
「幸せは手に入れるものではなく、感じるもの」
本書298,299ページ
という信念のもと、親子信頼のもと、一人でも多く幸せと感じる青年を増やすことを目的とされています。
多くの人にいま必要とされているのかも。
引きこもり・不登校の子を持つ親が読むべき本はこれ!まとめ
引きこもり・不登校の子を持つ親が読むべき本は「心理学が導く奇跡を起こす5つのプロセス、親から始める引きこもり回復」です。
- 親育ち・親子本能療法において、親が取り組むことで回復が期待できる。
- 直したものはぶりかえす、安らぎから治ったものはぶり返さない。
- 希望➡意思➡目的➡有用性➡アイデンティティのプロセスで回復する
- 親も子も充実した人生を送れるようになる
- 幸せは手に入れるものではなく、感じるもの
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