日々の社会科:うま味を発見、池田菊苗博士と味の素

日々の社会科

ただの湯では、と見紛う
すまし汁を口に含むと、
じんわり広がる豊かな滋味に、

あぁおいしい…。

と、しみじみ思う。

それは、うま味の為せる技。

うま味とは、甘味、酸味、塩味、
苦味に続く、5番目の味であり、
「基本味」と呼ばれるもの。

美味しい、という意味の「旨味」とは
違う。
味の要素、のひとつ。

といっても、甘い、苦い、のように
明確に表現できる言葉を
持つわけでもない。

感じているし、味わっているけれども
なんと言ったらよいのだろう。

その「うま味」を発見したのは
日本人、東京帝国大学の
池田菊苗(きくなえ)博士だった。

武士の家に生まれ、
通訳ができるほどの英語力を
身につけた池田菊苗は
官費で帝国大学に入り、
ドイツに留学して、
日本人の栄養状態を改善したいと
願うようになる。

ドイツで初めて食べた
トマト、アスパラガス、肉、チーズの
うま味、にも気付いたがそれが 
何であるのかはまだはっきりと
わかっていなかった。

池田は漢学、英語、歴史
文学、経済、宗教にも精通し、
イギリスにも留学して、
同じ下宿にいた夏目漱石に
大きな影響を与えたと言われている。

そんな池田は
昆布に、肉やチーズと同じ味が
することに気づき、
昆布の成分の研究を始める。

そして、昆布の味の主要成分が 
グルタミン酸であることを
発見し、
それを「うま味」と名付けた。

1908年のことだった。

続いて弟子の小玉新太郎が
かつお節のうま味がイノシン酸で
あることを発見する。

干し椎茸のうま味がグアニル酸で
あることを発見したのは、
ヤマサ醤油の國中氏。

世界の人々は「うま味」に気付かず
議論が始まったのは
1982年になってからのことだった。

2000年になって
舌の味蕾にグルタミン酸の
受容体があることが発見され、
うま味が科学的に立証された。

池田は1908年にグルタミン酸を
発見した後、
うま味調味料の製造方法も
発明していた。

それを商業化したのが
鈴木商店の鈴木三郎助、
のちの「味の素」となる組織を
作った人物である。

味の素研究所は
2006年、胃にもグルタミン酸の
受容体があることを発見している。

胃の受容体がうま味成分を
受け取ると脳に情報が伝えられ、
タンパク質の消化吸収の
司令が送られるのだ。

うま味は、タンパク質に含まれるもの。

グルタミン酸はトマトや昆布、
玉ねぎ、チーズなど
幅広い食品に含まれ、

イノシン酸はカツオや肉類など
動物由来のものが多く、

グアニル酸は乾燥したきのこに多い。
 
うま味の特徴としては
舌全体に広がり、
持続性があり、
唾液の分泌を促す働きがある。

今では世界でUMAMIの存在が
認められ、
自国の食品のうま味に
気づく人々が増えている。

熟成したチーズにハム、
じっくり煮込んだブイヨン、

トマトケチャップやバーベキューソース、

上湯に豆豉、
ナンプラーやニョクマム、

いろいろなものが。。。
サルチャにトゥックトレイ、
ガルムにシト、
バカラオにチャルキにテラシに
セリョトカ、ブラチャアン…。

うま味成分は組み合わせると
相乗効果が高く、
だしのもっとも美味しい配合は、
グルタミン酸:イノシン酸が1:1で
あるとき、と
科学的に結論出されている。

世界の一流料理人たちが、
うま味をどう使うかが 
調理の味を決定づけることに
気づきだし、
使い始めている。

うま味の研究のために
来日する料理人も少なくない。

ただ、もっともうま味
たっぷり味わっているのは、
生まれてまもない人々。

母乳の中には、
豊富なグルタミン酸が
含まれている。

生まれたときから、
うま味が身体に大切なものを
もたらしてくれること、
安心できる味であること、

人はみな、知っているのだ。

コメント